壁ドンでGO!










跡部のマンションで忍足はコミックを手に持ち、跡部に詰め寄っていた。

「なぁ、いいやろ?一回だけでいいんや…頼むわ〜」

「あぁ? そんな恥ずかしいこと出来るかっての」

忍足はコミックを開いて、一所懸命指をさして、頼み込んでいた。

ことの発端は小一時間前、忍足は少女コミックを手に読んでいた。

彼はラブロマンスが大好きなので、漫画も少女コミックは普通に読む。

そんな忍足を跡部はもはや呆れていた。

好きな漫画を読んでいただけなら、まだマシだったのかも知れない。

突然、忍足が跡部に言い寄ってきた。

何でも今流行りの壁ドンを跡部にして欲しいらしい。

どうやら、キュンキュンしたいようだ。

「なぁ〜跡部…今日は俺の誕生日やし…いいやろ?」

こうなったら忍足は意外と頑固だ。

ずっと自分が誕生日だということをいいながら、頼み込んでくる。

忍足は跡部に寄り添いながら、耳元でささやいてきた。

「なぁ、してくれたら、跡部のしたいこともさせてあげるやけどな〜」

忍足の吐息と甘い声が跡部の体全身を駆け巡った。

「はぁ〜わかった。やればいいんだろ、やれば…」

結局惚れた弱みなのか、跡部はほぼ呆れ気味に返事をした。

「まったく、恥ずかしいぜ。こんなセリフ・・・」

「跡部もかなり恥ずかしいセリフ言ってるとおもうやけどな…」

漫画をパラパラとみながら、跡部はそうつぶやいたが、忍足はすかさずそうツッコミをいれた。

「跡部、ほな始めるで」

忍足の合図で跡部は位置につく。

その向かいに忍足が向かい合う。



些細なことで口論になった跡部と忍足。

その場の跡部から逃げようとする忍足に跡部が壁ドンをして引き止める設定らしい。

「跡部なんか、嫌いや」

「待てよ、忍足っ!!」

その場から立ち去る忍足に跡部は背後から追う。

その忍足の前から勢いよく手が飛び出した。

壁にドン

ビックリして、忍足は声を上げた。

「まだ俺の話は終わっちゃいねぇ。最後まで聞いてもらうぜ」

壁に手を押し当てたまま、忍足の方へ顔を近づける。

忍足はビックリを通り越して、ドキドキと心臓が鳴る。

「あ、跡部…」

ほのかに顔を赤らめながら、忍足は跡部から目を離せずにいた。

フッと跡部は笑みをこぼした。

跡部は忍足の眼鏡を外しながら、

「忍足…今日はもう逃がさない」

そうつぶやくと、忍足に唇を合わせた。

『え…それ、打ち合わせにないやで!!』

忍足は嬉しさ半分、恥ずかしさ半分で一人で頭の中が訳分からなくなっていた。

それでも跡部からの優しいキスは忍足の思考を止めるには十分だった。

「ン…跡…部」

跡部の濃厚なキスで忍足は体が熱さを帯びてきた。

「忍足…茶番は終わりだ。これからは2人で楽しもうぜ」

跡部はそのまま忍足をベッドに運んだ。

「忍足…Happy Birthday」

跡部は忍足の顔をジッと見つめて、そう言った。

その顔には笑みを浮かべていた。

「ありがとう…跡部」

忍足もまた笑みをこぼした。

そして、2人は唇を重ねた。





翌日。

ベッドの隣で眠る寝顔の可愛い跡部の顔を見ていた。

そんな普段とは違う顔を自分しか見られないと思うと優越感が湧き、自然と笑みがこぼれる。

昨日は壁ドンをしてくれたまではよかったが、結局跡部の思い通りにされた。

「確かに好きなことをしていいとはいったけどな〜」

忍足は跡部に気づかれないように、その頬にキスを落とした。

『跡部…好きやで』

部屋の片隅には少女コミックと眼鏡が落ちていた。





おわり